vol.40-⑦ やり方が間違っていた!?
- 2022年10月11日
- 所長の学び
前回の続きになります。
「大前提とする考え」が間違っていた。
「考え方」が間違っていた。
というお話をしてきて、もう一つの間違いは「やり方」についてです。
でもこれは決してイロハの運営方法が間違っていたというものではないんです。
それを期待された方、ごめんなさい。
何の「やり方」なのかというと、利用者さんの自主性や学びや成長を高める「やり方」ということです。
これは具体例を示さないと分からないと思うので、それを金村視点になってしまいますがお伝えしたいと思います。
僕は作業療法士です。
(自分では「作業療法士ではない」と思ってやっていますが、資格としては持っています。)
作業療法士として15年以上やってきたので、
やっぱり利用者さんの作業能力を分析し評価したり、
練習していただいて成功体験を積み重ねて段階を追って能力を向上させていく、
みたいな視点が抜けきらないんです。
(このやり方がいらない、と今の僕は思っているのですが抜けきらないということです。)
(こんなこと頑張っている作業療法士さんに聞かれると、軽蔑されるかもしれませんね。)
もちろんそれが専門家としての役割だから良いことと思われるかもしれません。
しかし、これが人の成長を妨げていたことに気付かされたのです。
それでは、それに関するある場面をお話しさせていただきます。
イロハニトイロでは、伝統工芸である螺鈿(らでん)細工を行っています。
実は螺鈿細工って「伝統工芸」っていうくらいだからとっても技術が必要だったりするんです。
手間だってたくさんかかるし、材料となる貝も塗料もとっても高価なんです。
そんな螺鈿細工ですが、見た目の綺麗さから「私もやってみたい」と希望される方がとっても多くいらっしゃいます。
もちろん最初から上手くできるはずがありません。
だからたくさん失敗して技術を高めていきます。
(しかしその難しさから、一度経験して終わりって方が多くいらっしゃいます。)
はい。ここからです!
技術がどんどん上がっていき、高い値がつけれる商品を製作できる人と、
工作を楽しむかのように自己満足的に商品を作っていく人とが出てきます。
後者の方は、商品にならなかったり、商品になっても高い値が付けられない出来になってしまいます。
(一生懸命作って頂いたものに「商品にならない」なんて言って申し訳ないです。ここでは事実として受け止めてください)
もちろん「もっとこうするといいよ」「これは商品にならないから次からここを気をつけたほうがいいですね。」などとお伝えしたり、その人がやりやすいように作業を工夫したりするわけです。
まさに作業療法士の視点と技術によるものです。
そんな風に、上手くできなくてもやる気がそがれないように、その人を守っていました。
でも大きな変化はみられないわけです。
(作業療法士ってすぐ変化を求めるんですよね。だから作業療法士でいたくないと思っています。)
となるとですね。
商品が売れても、それよりも出費の方がかさんで結局工賃が上がらない、という現象が生まれてきます。
「売れる商品を作っている人」が利益を生み出し、その利益分が「売れない商品を作っている人」の工賃にまわる。
うん、うん。
なんか不公平な気もするけど、でも仕方ない。
ここは耐えるところ。
いつか技術も上がっていくし、上手くできない人もいることを認め合えてこそ、楽しく前向きに仕事ができていけるんだ。
と自分に言い聞かせていたのです。
でもでも、できる人(売れる商品を作れる人)とできない人(利益が出ない商品になる人)の差が浮き出て来て、もちろん不満も溜まってきます。
技術が高い人が、技術の低い人が出来ないところもカバーするなどして、さらに余計な手間も取られていきます。
そのせいで、本来作りたい作品に割く時間も減ってしまいます。
だから商品も作れない、
だから売れない、
だから工賃も低くなる。
ああ、もうこれはダメだ。
よし、ハッキリとお伝えして、商品になるものをちゃんと作ってもらおう!
いやー、でもなー。
その人なりに一生懸命作っているし、能力の上がり方って人それぞれだしなー。
傷付けちゃうよなー。
「もう螺鈿したくない」って離れていくのかなー。
それって出来ない人をのけものにしているみたいだなー。
あーー、結局できる人が評価される環境になっていくじゃん。
そういう環境がしんどいからって始めたイロハだったのに。
でも、利益生み出して工賃上げないと事業所として認められない仕組みが制度としてあるしなー。
あーーー、どうしよう!
僕の中では、様々な考えが巡ります。
もちろん自分を守ろうとするいやらしい考えも。
でもこのままではダメ!
じゃあ、そんな困った時にすること。
それはこれまで何度もしてきたように、まずは伝えてみよう。
相談してみよう。
そう思いました。
そして、厳しい言葉も含めつつ現状をしっかりとお伝えしました。
「好きなものを好きなだけ自由に作る」のではなく、
売れる商品になるものを作っていこう。
利益を生み出すことをみんなでしていこう。
あなたは実は利益どころかずっと利益を減らすことをしている、とお伝えしたのです。
するとどうなったと思いますか?
僕が心配していたようになったのか?
いえいえ、そんなこと全くなかったんです!
もちろん少しショックはあったようですが。
どんな反応が返って来たか。
「自分も利益に繋がる仕事をしたい」と言ってくださったのです。
そしてそして、ここからが僕の間違いに気付く出来事です。
利益につながる役割を見つけるために一緒に作業を模索した結果、その人が得意とする作業が見つかったんです。
え?それ普通じゃん!?
って思いますか?
いえいえ、そういうことではないんです。
それは作業療法士の金村が、「この人にはその作業は無理だろう」とこれまでの様子を見て、能力を評価して決めつけていたものでした。
あれ?金村が作業療法士としてポンコツなだけ?
もちろんそれもあるでしょう。
でもですね、やっぱり一番の原因はそのメンバーの意識が変わったことが大きかったと僕は思うんです。
つまりですね。
その可能性を、僕が「あなたを傷付けないように守りたい」という思いから、勝手に封じ込めていたということです。
その人の可能性を「あなたを良くしたい」「あなたの能力を向上させたい」「あなたを守りたい」という思いによって見えなくしていたんです。
そしてその人のそんな可能性を信じてもいなかったんです。
イロハでは、対等な関係を大事にしているはずです。
だからこそ、叱らないし、怒らない。
対話していく。
のはずです。
あれ?
なのに何を怖がっているの?
自分の中に相手を見下し、過度に守ろうとするやり方をしていたことに気付いたのでした。
先回りしない。
共に痛みを味わい、
共に悩み、
共に考える。
言葉ほど実践は簡単ではありませんでした。
でもこの「やり方」の間違いに気づくことができ、少しずつイロハのあるべき姿が明確化してきた気がしています。
次回が、今回のシリーズの肝となるところです。
やっとたどり着きました。
長くなってすみません。
滋賀県一工賃が低い事業所が、今大きく変わろうとしています。
どう変わろうとしているのか?
そしてこれまでの経過が実はこの変化に大きく影響していた、ということをお伝えしていきたいと思うのです。
ぜひぜひ次回もお付き合い下さい。
イロハニトイロ所長
金村栄治